沖縄の方言に「ちむぐるさー」というものがあります。
意訳すると「かわいそう」ですが、
直訳すると「肝(ちむ)が苦しい」という意味になります。
どういうことかというと、
他人の「かわいそう」は、自分の「肝が苦しい」ということになります。
そうした言葉の背景には、
沖縄の「痛みに寄り添う」という文化があると思います。
「かわいそう」と言って突き放すものではなく、寄り添うのです。
沖縄在住20年の島ないちゃー・Hさんのエピソードを紹介します。
Hさんは沖縄に来た当初、粗末な東屋に住んでいました。
壁のない、柱だけの住まいです。
住まいと言っていいのか、簡単に言えばホームレスでした。
しかし、お金はたくさん持っていたので、
毎晩、近くの食堂に通っていたそうです。
ある日、いつものように食堂のご飯を食べていると、
厨房にいたお母さんが
「あなた最近よく見るけれど、どこに住んでいるの?」と訊ねてきました。
Hさんは面白おかしく、
壁のない、野宿みたいなところに住んでいます、と答えてしまいました。
食堂のお母さんは、大変驚き、
「難儀だったねー」とHさんのテーブルに山盛りのごはんの入った定食を置くと、
そのまま座り、Hさんの身の上を聞きはじめました。
目を潤ませた食堂のお母さんは、
翌朝の分まで弁当を作るとHさんに持たせてくれたのです。
それだけにとどまらず、
常連のお客さんたちを呼び、「この青年をみんなで助けよう」と、言ってくれました。
また、
「野宿は大変だ。食堂の鍵と布団を預けるから、ここで寝泊まりしなさい」
とまで言ってくれたのです。
Hさんは感謝するとともに、
こうした沖縄の「ちむぐるさー」の心に触れ、
沖縄に永住することを決めたそうです。
これは沖縄の誇る文化だと思います。